1 心残りのある少女の話

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 今日の担当は3人、少ない方だな。国境を守る兵士、街に住む老人、田舎村に住む少女…へえ、この田舎の村、皆殺しにあったのか。日付的にはもう2週間以上も経ってる。人が同じ場所、同じ時間にたくさん死ぬと処理が遅れるって聞いてたけど、こんだけの人数で2週間も遅れるのか。戦争でも起きたら遅延しまくりじゃん。とりあえず座標チェックを始めようとした所で、再びデスメタルが鳴り響く。スヌーズ切ったはずなのになんでまた鳴るんだよ!目覚まし2個目かよ!イライラしながらスマホを拾い上げて止めた所で、頭上で寝てた先輩がうめき声をあげた。 「カナトくん、今何時?」 「8時半です」 「え?!なに、8時半?!」  勢いよく起きたせいで、バランスを崩してハンモックから落下してくる先輩は、派手な音を立てて俺の足元で丸まった。痛さを堪える先輩の前へしゃがみ込んでスマホ画面を見せつけると、暗く空いた穴が更に大きくなったような気がする。実際骸骨だから変化してないけど。 「えぇ?!やばいやばい!やばいよ、カナトくん!ボク今日主任ミーティングあるんだよ!」  ああ、だからいつもより早い時間で目覚まし鳴ったのか。目の前で慌てふためく先輩は、着ていた黒のスエットを脱ぎながら洗面所へかけていく。洗濯機洗面所なんだから、ここで脱ぐなよ。栄養補助食を咥えながら脱ぎ散らかされたスエットを拾って後を追うと、そこにはトランクス一枚の骸骨が必死に洗顔フォーム泡立ててる姿があった。この人が顔洗ってる所初めて見たけど、骸骨なのになんで肌気にしてんだろ…っていうか、時間ないんじゃなかったのか。朝から突っ込みが追い付かない。 「カナトくん!歩いて食べちゃダメだよ、お行儀悪いぞっ」     
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