4 愛が欲しかった女の話

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 泣き叫ぶ獣が必死に言葉を投げかけているのに、人々はただ怯み恐れ剣を構えるのみ。向けられているのは殺意でしかない。 「ワタくしの、大切ナモノは、全てあノ女に奪わレタ…!」 『第一皇女をお守りするんだ!』  見てるこっちが辛くなる。もう止めてやれよと言ってやりたいのに、俺の声は届かない。とうとうモブ騎士達が攻撃を始めると、獣は必死に抵抗をする。戦い慣れている相手と、力があるけど素人が対等に戦えるはずがない。 「痛い!やメテ! わタクシは、タダ、必要とサレたかったノ…!見テ欲しカッタノ…!」 『後は俺たちが受け持ちます!』  いつ間にか、泣き叫ぶ獣の後ろには、駆けつけた勇者たちが武器を構えて立っていた。勇者の登場に沸く人間たち。既に避難してるのか、騎士と第一皇女の姿はどこにもなくて、数十人の騎士と勇者に囲まれた獣はもう一度咆哮を上げた。 「どうシて…!!!」 『魔物の首、ここで刈り取る!いくぞ!!』 「ワタクしだって、幸せニなりタカッた!!愛が、欲シカったノよ…!!!」  どんなに叫んでも、その声は届かない。  きっと、生者には咆哮にしか聞こえない。  どんなに泣いても、向けられるのは殺意だけで、そこに慈悲は無い。     
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