4 愛が欲しかった女の話

13/13
133人が本棚に入れています
本棚に追加
/153ページ
 物量で攻められてしまえば敵うはずもなく、目を射抜かれ、腕が切り落とされ、巨体は倒れ込む。魔法を撃ち込まれ、腹が抉れて腸が飛び散ったのに、それでも獣は生きている。ひたすらに、愛が欲しいとだけ叫び続けていた。  すでに虫の息となっても、狂ったように同じことを口にする獣は次第に動かなくなっていく。口から長くなってしまった舌をだらしなく出していて、これが皇女だったと言われても信じられない有様だ。悠然と歩み寄った勇者により、留めを刺されるその最期まで言い続けた言葉は、斬撃でぴたりと止まった。  魔落ちしている状態では魂の回収は出来ない。タブレットを確認してみると、対応不要へと赤い太文字表示で更新されていた。  もうここに居る必要はない。帰ろう。喜び合う生者達を見ているだけで辛い。  鍵を差し込み、ドアを呼び出して、開く。こんなに重い気持ちでここを潜るの初めてだ。  ゆっくりとドアを閉めるとき、何か聞こえた気がしたけど、それを気にする余裕が俺に残ってなかった。 『大丈夫か、ルカ。戦闘に集中出来ていなかったようだが…』 『…愛が、欲しかったって』 『愛?何を言ってるんだ?』 『…何でもない』 (愛が欲しかった女の話。)
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!