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全ては事故。淫魔のせいであんなとんでもない事になった。自分にそう言い聞かせて、気持ちを切り替えタブレットの電源を入れる。さて、今日のバイトの対象者は…と目を通して固まる。加えていた固形栄養食を落としても、拾えないぐらいの衝撃に固まり続ける。
鏡を見ながらフードを直していた先輩が、俺の様子に気付いたのかやたらといい笑顔を浮かべた。
「ヤり逃げは男の恥だからね。僭越ながらボクがセッティングしておいたよ」
「え、いや…」
「この前は体でお話してきたみたいだけど、今回はちゃんと言葉を持ってお話できると良いね」
前言撤回。
この人、天使なんかじゃない…傷口抉ってくる死神だ。
大体ヤり逃げしたのは相手の方で、俺はヤられた方だし。弁解したくなるけど、恥ずかしい内容で詰まる声のせいで、先輩に何も言い返すことも出来ず見送る事になってしまった。なんか最近、振り回されてる気がする。その根源となる人物と今夜も会うハメになるとは…
「どんな顔すりゃいいんだよ……」
リスト最後に乗ってる名前を指で叩きながら、溜息が漏れた。
◆
開けたドアの先は、珍しく戦闘中じゃなかった。宿屋で休憩中の勇者達の先、暗くなっている窓の外をぼんやりと眺めていた賢者がそこに居た。死神が迎えに来てる事に気付いてるはずなのに、賢者は振り返りもせず座り込んでいる。
「……おい」
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