6 わけの分からない感情の話

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 賢者の話はとにかく面白かった。前提として、俺の暮らしたことない異世界事情から楽しいし、親しみあるRPGあるあるネタにもたくさん頷ける。ゲームの中でしか冒険したことのない俺だったけど、賢者がお前冒険者経験あるでしょ?って疑ってくる程には知識があったって言うもなんか嬉しい。いつの間にか縮まった距離に、久しぶりに友達とくだらない話で盛り上がってた生前の事を思い出す。閉じ込められたって自己嫌悪したけど、案外悪い事じゃなかったかもしれない。  ここの設備の使い方がよく分からない俺に代わり、飲み物のおかわりを入れに行った賢者の背中を見送る。一人になった所で背筋を伸ばすと、だいぶ凝り固まっていたのかポキポキ骨がなった。もっと伸びたくて、目の前にあるベッドへダイブすれば、予想以上にふかふかな感触が返ってきた。うつ伏せて両手両足を伸ばしてごろごろしていると、戻ってきたのか賢者の小さな笑い声が聞こえる。 「何してんの」 「お帰り」  顔だけ振り返って答えた俺に、賢者は怒る事も無く近づいてくると、机の上へカップを置いてから、ベッドの端へ腰かける。重みで少し軋んだ。少し先にあった枕を手繰り寄せて頭を乗せると、幸せを感じる。場所がどこであれ、やっぱりベッドの上でごろごろすんのは最高だ。 「だらしない顔だなぁ」  ギシっと言う音と共に暗くなったと思うと、覆いかぶさるように賢者が顔を覗き込んできてた。幸せを噛みしめてる顔はかなりだらしないのは自覚があるから、何とも言えない。 「……ねぇ、本当に怒ってないの?」 「何が?」 「この前の事」 「ぐっ、また蒸し返してくるか…」     
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