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ゆっくりと近づいてみると、必死になって男の腰に縋り付く女の子と、力づくで振りほどき、積み上げられた石の山を狂ったように蹴り散らかす男の姿があった。何度か止めようと試みるも、力では敵わないと判断したようで、女の子は座り込むとひたすらに謝り続けていた。
やがて、石の山の跡形が無くなった頃に乱した息のまま止まると、男は振り返る。鬼の形相で睨みつけられ、女の子の泣き声が止まった。
『あれだけの被害をだしているんだ!次馬鹿な真似をしたら追い出すぞ!!』
『ごめんなさい…ごめんなさい…』
謝り続ける女の子を強く睨んでから、男はそのままの勢いで明かりの方へと戻っていく。お父さんと呼ばれていたから父親だろうに、暗い森の中に置き去りにされている女の子を振り返る事を一度もせずに消えていった。
衝撃的な光景に何も言えず、猫と女の子を見つめていたら、チリンと言う鈴の音を鳴らしながらやっと猫が振り返った。100年生きたと言われるだけはあり、老猫の顔をしていた。
「ごめんなさいね、死神さん」
「え?!あ、いえ…」
突然話しかけられ、言葉に詰まる。確かに婆ちゃんの声で言葉を話したけど…目の前の猫の口から出ているなんて信じられない。周りを見渡しても誰もいないし…結局元に戻ってきた視線に、猫がクスクスと笑った。
「あらあら、化け猫は初めてかしら?話してるのは私で間違いないわよ」
「あ、ですよね…!すいません…」
「いいえ、初めは驚くものよね」
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