2 俺が死んだ時の話

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2 俺が死んだ時の話

   あのマスクを被って死神をしている時は、感覚が狂うようになってるんだと思う。  マスクの効果なのかは分らないけど、普段なら絶対耐えられないような悲しい事も、何も感じない。ただ、泣き喚いていると言う事実だけが伝わってきて、場合によってはそれが煩いとすら思う。バイトが終わり、先輩の部屋まで戻ってくれば、いつの間にか死人と接した実感は無くなっていく。  だからと言って、起こった出来事を忘れているわけでも無い。いつどこで誰を迎えに行ったのか、相手の人柄や話していた内容はどんなだったのか…誰かの体験を事細かにまとめられた本で読んだような感覚で、記憶に残る。そうやってすり替わってくれるのは、とても有難い事だろう。こうでなけりゃ、とっくに心が壊れてるはずだ。  合鍵を使って入った先輩の自室。家主はまだ帰ってきていないのを確認すると、着ていた黒スーツを脱ぎ捨て風呂場へと向かう。死んだはずの体に掛かるお湯は温かくて気持ちが良い。こっちの世界に居る間は、まるで生者のような生活を送っている。  死んだはずの俺が、何でこんな生活を送っているのか…切っ掛けは、俺自身の死亡事件だった。  ◆     
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