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非常駐車帯
ある日、仕事帰りの小夜子は毎日利用するトンネルの非常駐車帯で老人が座り込んでいることに気付いた。
何気なく過ぎてしまってから、ふと迷子になっている老人かもしれないと思い直し、Uターンした。
この近隣には高齢者施設があり、よく迷い人のポスターが道路脇のガードレールや電信柱に貼られているからだ。
だが、引き返してみても誰もいなかった。
見間違い? にしてもおかしいけど、ま、いいか。
小夜子は首を傾げながらスマホの見過ぎによる目の疲れだと思うことにした。
数日経っての通勤途中、またも老人を見かけた。顔までは見えず、先の人物と同一かどうかはわからないが、今度は二人、非常駐車帯に座り込んでいる。
時間的に余裕がなく確認ができない。散歩に出た老人たちがあそこで休憩しているのだと思うことにした。
排気ガスの充満したトンネルの中で?
疑問は満載だったが、忙しくてそのまま小夜子はそのことを忘れてしまった。
二日ほど過ぎての帰宅途中、ヘッドライトが例の場所に三人座っているのを映し出し、それを遠目で確認した。
今回はちゃんと事情を尋ねようと車を止めるも非常駐車帯には誰もいない。見間違えるようなものも何一つない。
トンネル内ということを差し引いても異常な冷気が背筋に怖気を走らせ、小夜子は慌てて車に戻り、トンネルを抜け出した。
小夜子はその後、トンネルを利用しない別ルートで通勤した。遠回りになるが仕方ない。
件の施設では頻繁に迷い老人が出ることに不審を抱いた家族からの連絡で警察の捜査が入り、結果、二人の職員が老人たちを殺害して山中に埋めていたことを突きとめた。
掘り起こした遺体は九人もあったという。
小夜子はそのニュースを知った時、あのまま通り続けていたら九人全員揃うのを見たかもしれないと思いぞっとした。
とにかく事件が解決したことで安心し、小夜子はまた元のルートでの通勤に戻った。
もちろん非常駐車帯にはもう誰もいない。
ほっとしてその前を通過した時、ガラスに反射した車内の異変に気付いた。小夜子一人しか乗っていないのに人がぎゅうぎゅうに座っている。
それが殺された九人の老人だと小夜子にはわかった。全員の視線が自分に注がれていることも。
小夜子はそのまま走り続けたが、いつまでたってもトンネルの出口は見えなかった。
「というわけで、ドライバーはそのまま車ごと行方不明になるんだって。
その度に非常駐車帯に座り込む人がひとり増えるんだそうよ。
ねえ。これも聞いたことある?
あそこの高台にある『丘の公園』のウワサなんだけど――」
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