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丘の公園駐車場
せっかくの休日も美早には行く当てもなく、気晴らしにもならないが丘の公園まで一人ドライブに来た。
上司と折り合いが悪く、ともに愚痴を吐く同僚も聞いてくれる先輩もない美早は日々我慢に我慢を重ね、心は荒んでいく一方だった。
丘の公園は高台にあって森の中に遊歩道があるだけの公園だが景観がとても美しい。春の桜や秋の紅葉はもちろん一番美しいのはここから眺める下界の夜景だという。
かといってそんな景色を眺めたくらいでわたしの荒んだ心は癒されないけど。
駐車場に車を止めた美早はそう思いながら展望台までゆっくり歩く。
共に歩む彼氏でもいればまだましなのだろうが恋人もなく、真冬の今は紅葉も散ってしまって園内の景色はただ寂しいだけだった。
だが、上から眺める夕焼けに染まった町並みは少しだけ、ほんの少しだけ美早の心に潤いを与えた。
このまま宝石箱みたいな夜景も見て行こうかな。 暮れていく空を仰ぎ、しばらくそこに佇んでいたが、若いカップルが展望台にやって来た。
美早など眼中にないかのようにいちゃいちゃとしだし、居たたまれず夜景を断念して駐車場に戻ることにした。
丸太でできた階段を降り、芝生の坂道を下りながら夕暮れ色に染まる自分の白い軽自動車に向かった。
駐車場の入り口近くに停めている黒いセダンは今のカップルの車だろう。
羨ましくないと言えばうそになる。でも、今の美早には恋人を作る気力もなかった。
っていうか、作ろうとしてもできっこないか、ふっ。
自分を鼻で笑いつつ、車に向かって歩いていた美早だったが、さっきからそこに見えているのに足取りが重く、なかなか車までたどり着けない。
どんだけ疲れてるのかしら。ずっと同じ場所を歩き続けてるみたい。
ほんと、まったく車にたどり着けないわ。
「というわけで、あの駐車場に長い期間置きっぱなしになっている車は全部そんなふうになってしまった人たちの車なんですって。
持ち主の帰らない車はいずれ撤去されちゃうけど、その数だけあそこには同じ所を歩き続ける人たちがいるそうよ。
お仲間がいっぱいで賑やかに思うでしょ? でも、みんなお互いが見えなくて、ずっとぼっちなんだって。
で、これはね、クリスマスシーズン限定のウワサなんだけど――」
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