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ずっと連絡の絶えていた陽馬がふいに部屋に訪ねてきたのは、豪士と儀式を行う予定の週末だった。 「……久しぶり」 部屋のドアを開けた向こうで、陽馬はぎこちなく笑みを浮かべて、香澄の機嫌を伺うように見た。 香澄はにこりともせずに小さく頷いて、部屋に陽馬を通した。 「パートナー解約申請が届いたから……」 ローテーブルに珈琲を出す香澄の淡々とした様子にこらえきれなくなったように、陽馬は呟いた。 「コツレサマになれる時間は残り少ないの。だから、……ごめんなさい」 香澄はソファに座った陽馬の対面のラグに座り、頭をさげた。 一瞬陽馬が表情を歪めて、それからふと気づいたようにソファから降りて香澄のそばに回った。 「なんか、疲れてる? 顔色悪いけど」 「残業続きだからかな」 紗英がコツレサマになってから、紗英が担当する仕事が香澄に回ってきていた。 どうやらオコの健康が良くなく、しかも紗英自身も体調が優れないのだという。 出勤してもすぐに熱を出したり泣いたりのオコのことで業務に集中できる状態ではないのだ。 すぐに会社のキッズルームから呼び出しがあり、フロアであやしながら仕事をしている姿が多くなった。     
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