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聞き返した香澄に、りかがドリンクのストローに口をつけた。
しばらく飲んでいる沈黙が、香澄にはひどく重い。
「市村さんって、結婚してるよね? バンク利用はしてないって聞いてた気がするんだけど」
少し戸惑ったように聞いた香澄に、りかはドリンクに残る最後までずずっとストローで吸い上げた。
「結婚してて子どもいないって、珍しいじゃない? いないのにバンク利用してないって不思議だなって思ってて。コツレサマになるにも、ほら、私たち残りの時間あんまりないし」
黙って耳を傾けていたりかは、ドリンクを紙袋にいれると、その口をくしゃりと潰した。
「あたし、コツレサマになる気ないんだよね。それは、夫も了解してる」
「えっ……」
りかの言葉が理解できずに、香澄は次の言葉が出なかった。
その香澄に、りかは小さく肩をすくめた。
「だ、だって、それじゃあ一生ウ……」
「ウマズメのままでいいかって?」
ウマズメ。
コツレサマの対義語。
子どもを産まない、または産めない女のこと。
その言葉をりかがさらりと言った瞬間、香澄は激しい嫌悪感に襲われた。
まるで自分が穢れたかのようにさえ錯覚する。
言葉にするのもおぞましく、舌が痺れたように感じた。
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