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いや唯一、外見だけはちやほやされていた方だ。 美人、きれい、かわいい。 ありきたりの言葉で単純に容姿を褒められると、それだけで香澄は他の女子よりも誰よりも自分がコツレサマにふさわしいと思えた。 思い出しながら、香澄はざわざわと皮膚の上が蠢くような寒気を覚えた。 あの時、香澄はりかに言いたかった。 コツレサマにならないと、一人前の女じゃない。 それは雑誌の中で読んだコピーではない。 誰かが香澄にそう言った。 昔、雑誌の妊婦のモデルのように、艶やかに自信に溢れた微笑を浮かべた誰か。 その人に言われた言葉は、今も香澄の首を締め上げるようだ。 まるで鉄の鎖のように重く。 ふとそう思って、香澄はゾッとした。 一人前の女になるために、それはつまりコツレサマになるために香澄は努力してきた。 子宮環境やホルモン分泌にいいといわれたら、食べ物は当然、サプリでも漢方薬でもエステでもデトックスでもなんでも試した。 それを悔いたことはない。 政府によると女性が妊娠できる期限はいちおう49歳。 でもその前に閉経してしまったら元も子もない。 高齢になればなるほど、オコができる確率もできたとして育て上げられる確率も無事出産できる可能性も減って、リスクばかりが高くなる。 「宮脇香澄さん」     
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