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ふいに名前を呼ばれて、香澄はハッと顔をあげた。 看護師が診察室に入るよう促す。 目礼だけして立ち上がった。 淡いピンクで統一された婦人科クリニックの空間は広々としているのに、患者用のイスがひどく少なく、香澄の他に誰もいない。 完全予約制だから仕方がないのかもしれないが、コツレサマになれないことへの不安を分かち合える同士がいないのは辛い。 香澄はピンクのドアの前で小さく深呼吸した。 動悸が早くなっている。 ミシルシが確認できなければ、香澄と陽馬の儀式は今回も失敗したということになる。 まるで裁判の判決を待つ気分だった。 有罪判決とは分かっていて、でもその重さがどの程度なのかを推し量るような。 知らずに両手を握り合わせながら、香澄は最後の祈りを神に捧げる気持ちで診察室の前に立った。 床が固いものではなくて、一歩踏み外せば奈落に吸い込まれるような不安定な足場に、いつも、香澄は立たされる。 20代の時はまだそんなことを思いもしなかった。 どこまでも、地面はしっかり香澄を支えてくれた。 でも30代に入り、35歳を過ぎて、40歳を目前にして、周りの目がどんどん胡乱なものを見るようになって。     
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