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天国への切符も地獄への手形も、扉の向こうの白衣の男が、数年前まで自分の人生には全く関わりなかった人間が、握っている。 神さま。 どうか、今日こそは。 「宮脇さん、儀式の結果ですが」 パソコンと書類ケース、数冊の本と聴診器などの医療器具だけしかない小さな診察室で、白いマスクとキャップを被って顔をさらさない医師は、事務的な口調で続けた。 「ミシルシの存在は確認できませんでした」 マスクでくぐもった声は、湿ってもいない。 ハッという自嘲と失望と納得とがないまぜになった声が出た。 最初の頃は涙も出たけれど、今はもうそんな感傷さえ擦り切れている。 自分を見ないでいた医師がかすかに動揺したように香澄の方を見て、すぐにパソコンに視線を戻した。 その一瞬の視線の中に揺れた同情の色が、香澄を簡単に絶望へと突き落とす。 「そろそろ、第二の儀式にステップアップしますか? 第三の方が体外での受精になりますのである程度確率は保証できますが」 予想していた言葉に、香澄は顔から表情を抜け落ちさせたまま「相談してみます」と答えた。 医師が事務的に、「もう分かっていらっしゃると思いますので、改めて詳細は説明しませんが」と前置きして、ステップアップについての意義と方法について話し始めた。 精子提供者バンクのパートナーが変わる度に何度も聞かされてきた。     
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