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一からとは言わずとも同じことを同じ相手に話すその時間の虚しさを、いつまで経ってもこの医師は気づかない。 ふらつく体を抱えてクリニックを出ると、スマホを開く。 次に排卵が起きるのは。 それとも無理やり排卵を誘発させるか。 いや、その前に陽馬にもう一度だけ第二の儀式をお願いしてみようか。 この前はあまりに焦って話を飛躍させてしまった。 まだ陽馬とは第二の儀式にステップアップしたことはないのだから、慎重に、そして陽馬のプライドや気持ちを傷つけないようにしてお願いすれば、また別の結果に繋がるかもしれない。 コツレサマへの協力を惜しまない。 陽馬は、ことあるごとにそう言ってくれていた。 でもそうやって情を出せば出すほど、時間ばかりが過ぎていく。 そして香澄の体は、下腹部に内包した世界は、萎びて朽ちていくのだ。 香澄は寒気を覚えると、辺りを見回した。 さまざまなテナントが入ったビルでも、クリニックばかりが入ったフロアは、人気も少ない。 そこにまるで自分1人だけ取り残されたような薄ら寒さに身をひとつ震わせて、香澄はスマホで精子提供者バンクにログインして、リストを開いた。 陽馬の次にある名前をタップした。 柾豪士(たけし)。鳶職人。 写真を見る限り、健康的に日焼けしていて、ガタイもいい。     
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