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柾豪士と会った日は、排卵予定日の2週間前だった。
正式にバンクのパートナーを変える時は、事前に一度会うことが前提となっている。
その時は会話やデートだけでもいいが、多くは体の相性を確かめるため儀式を行う。
それを経て、お互いが相手に好感を持てれば正式なパートナーとして申請する。
そうしなければいくら儀式が成功しようと、コツレ様として認定されないのだ。
精子提供者バンクのパートナーをリストに従ってどんどん変えていくことはできるが、リストの順位がさがるほどにミシルシができる確率もオコの出生確率もまた下がっていく。
たまに更新して、出生確率が高い相手が出現することもあるが、そういった相手が首都圏で生活しているとは限らない。
香澄はなるべく条件設定で首都圏在住の相手に絞っているが、もし経済的に余裕があるならもっと広範囲に設定もしていただろう。
その中で豪士は、陽馬の次に64の数値をもつ相手だった。
待ち合わせた蒲田の商店街に馴染むような、けだるさと明るさの混じり合った笑顔は、屈託ない。
それは会って挨拶をした瞬間も、そしてプレ段階での儀式を終えた今も変わらなかった。
「あのさー香澄」
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