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「そんな辛気臭え顔しないでって。オレさ、子ども大好きなんだ。でもオレみたいな薄給じゃあさあ、子ども育てらんないしさー。だから香澄みたいなコツレ様希望の女がオレの子どもばんばん産んでくれるって嬉しいんだよ。だって、コツレ様が嫌がんなければ、オレ、子どもの父親として会いに行けるじゃん?」 「……けっこう儀式成功させてきたの?」 「まあね。コツレ様になったかどうか精子提供者に通知する義務はないから実際はわかんないけど、知ってる限り下は0歳、上は高校生まで……20人はくだらないんじゃない?」 「すごい……」 「だから種馬。種馬上等! それにオレ儀式も大好き。性欲を適度に発散できるしさ、気持ちいーことして大好きな子どもつくれて、でも子どもの生活とかは責任もたなくて大丈夫って、ぶっちゃけオレのためのバンクかよって思ってるくらいだし」 ぺらぺらと話し続ける豪士に香澄はメイクを直す手が重くなっていくような気がした。 下着姿のままのせいか、鳥肌さえ立ち始めている。 豪士のような考え方の精子提供者に出会ったことがないわけではない。 基本的にお互いの利害が一致しているのだから、なんらためらいや後ろめたさを感じる必要はない。 そうして香澄もまた多くの精子提供者とパートナー契約を結んできた。 でも種馬だと言うその口は、同時に香澄という人間を人間として否定しているように聞こえた。 「どう、正式登録?」 豪士がベッドを降りて、香澄の背後に立つとするりとうなじから肩を撫でた。     
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