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「それの何が悪いの自分が輝きたいって思う何がだめなの。コツレ様になりたいって思っちゃいけないの。高齢出産でリスクがどんどん高まるのに、それでも必死で女の体すり減らして、まるで機械のように儀式してる私がどんな気持ちで。別に儀式が好きなわけじゃないコツレ様になるためにはそうするしか道がないんだから仕方ないじゃない私だって他にコツレ様になる道があるならあんたみたいな男らと儀式もしないわよでもどんどん周りがコツレ様になってコツレ様ばっかり特別扱いしてるじゃないコツレ様になった瞬間ウマズメの私とは話ができないみたいにコツレ様同士でつるんで話すことはコツレ様にしか分からない話ばかりでコツレ様になった瞬間に政府や会社もてのひら返したみたいに手厚く保護して守ったりなんかしてコツレ様になれない私はどうしたらいいのコツレ様になれない私を一人前の女としてううん人としてすら見ないのはそっちじゃない」 豪士が香澄の勢いに飲まれるようにしてあっけにとられている。 怯えと恐怖が入り混じった表情にはさらに憐れみが見え隠れして、香澄はハッとしたように口を噤んだ。 薄暗く精子の匂いしかしないようなラブホテルの室内に、重い沈黙が落ちた。 「……なんでそうまでしてコツレ様になりたいわけ?」 言いながら豪士は、すばやくチノパンを履き終えて財布を手にすると部屋のドアに向かった。 「まあ、気が向いたらパートナー申請してよ。オレはいつでもウエルカム」 ドアを開け閉めする音がして、香澄はあられもない下着姿で立ち尽くした。 子どもが欲しかったのか。 好きな男の子どもを産みたかったのか。 コツレ様になりたかったのか。 コツレ様ではない自分を見る目が怖かったのか。 誰が、コツレ様ではない女を、ウマズメと呼び出したのか。 混乱と絶望と悔しさと、香澄は大声をあげて罵りたかった。 産まない女を産めない女と貶め、それだけで、女ではないと断じた誰かを。
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