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「え、じゃあ結局別れたの?」
「ひとまずは」
「ひとまず? せっかく宮脇さんのことまるごと受け止めてくれる人かもしれないのに?」
「うん……。でも、彼はまだ20代で、もしかしたら将来、子どもが欲しくなるかもしれない。子どもを産めなくなった私なら、違ってたかもしれないけど」
「そんなに子どもが欲しい理由が分からないよ、あたしには」
そう言ってりかはファーストフードのビッグサイズのポテトを口に何本かくわえた。
「子どもが欲しい、とは違うかもしれない。コツレサマにならないと一人前な気がしなくて」
「そんなことないでしょ」
「そう、そうだね……。それ彼にも言われた。でも、誰かに言われたその言葉が、どうしても拭い切れなくて」
「呪いだね」
「呪い?」
「誰かが宮脇さんに、コツレサマ以外の生き方を失わせるように仕向けたんだね」
「そうかな」
香澄は弱々しく笑って、それからふと自分の薄っぺらい下腹部を見下ろした。
何も実を結ばない、ただ命の源である卵を無駄に垂れ流してきた子宮が嘲笑ったような気がして、香澄はまた泣きそうになった。
陽馬に言われた日から、香澄の涙腺が緩くなっている。
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