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香澄の腕を掴む手は荒れネイルも一部剥げている。
小刻みに揺れる髪の毛もどこかパサパサに乾いているようだった。
いつも身なりに感心するほど気を配っていた紗英ではない。
「どうしたの、紗英ちゃん」
「私、私、こんなにつらいならコツレサマになんてならなければよかった……!」
泣き声の合間に絞り出された言葉に、香澄は頭を石で殴られたような衝撃を受けた。
それでも目の前で泣き縋るような紗英を慰めようと、声を押し出す。
「あ、あんなにコツレサマになれて喜んでたじゃない。どうしたの、何があったの?」
「私が産んだオコね、体が弱くて、ちょっとした変化ですぐ熱を出して。しかも夜泣きもひどくて。睡眠時間もろくにとれなくて。でも先輩コツレサマに相談しても、そういうもんだって。むしろ乗り越えてこそオコを育てる醍醐味が分かるとか。仕事には集中できないし、周りは何も言わないけどオコがギャン泣きすれば迷惑だろうし、もう訳分からなくて」
言ってまた泣き出した紗英の肩を、香澄はぎこちない手でそっと撫でた。
「聞いても一般論しか出てこないし、そのくせオコばかりかわいいかわいいって、コツレサマの私を差し置いてオコばっかり」
香澄は紗英の言葉を聞きながら、ゆっくり紗英を離した。
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