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「でも、紗英ちゃんは、コツレサマなんだよ。……もう、母なんだよ」 母。 その瞬間、香澄の脳裏をよぎったコツレサマの顔した女。 コツレサマでなければ、一人前の女じゃない。 そう言ったのは、いつも一番身近にいた血の繋がった相手。 「でも母になんてすぐなれないし。私は、ただ憧れてたコツレサマになりたくて……ただ……」 紗英の表情がかすかに歪み、それを隠すように俯いた。 「私でよければ、愚痴でも不満でもまた前のように聞くから」 頭痛を覚えながらも、香澄はなんとか笑みを浮かべて紗英の肩を励ますように叩いた。 「……すみません、香澄先輩。仕事中なのに」 「いいよ。コツレサマ専用ルームで仮眠させてもらったら? 少しはすっきりするかもしれない」 しょんぼりと頷いて、紗英は鼻をすすると香澄から離れた。 そして小さく頭を下げると、ふらつくような足取りで廊下を歩いていく。 その後ろ姿を見つめながら、香澄はふとりかの言葉を思い出した。 本当に、女には、呪いがかけられているのかもしれない。 かつて嫁ぎ先でウマズメと罵られて離縁を突きつけられた女性たちの、恨み辛みが凝って、どうしようもなく。 母から娘へ。娘からそのまた娘へ。 孕む。産む。     
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