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「精子提供者バンクの利用初めてなんです。こういうマッチングってどうかと思ってたんですけど、香澄さんのような人がいるならありかも」
「オレ、子ども好きなんです。自分の子どもが欲しい。でも結婚っていう形はとりたくなくて。無責任って思いますかね、やっぱ」
「香澄さん、オレ、香澄さんがコツレサマになれるようにがんばるから」
けなげな顔の犬みたいな陽馬は、会うほどに香澄に懐いた。
排卵予定日でなくても、儀式を行う時もあったというのに。
時間切れが、迫る。
思い出すらも凌駕して、香澄を急き立てる、女の期限。
ふと視界の端に、陽馬がプレゼントしてくれた子宝に恵まれるというその名も「子宝草」という多肉植物の鉢植えが映った。
その瞬間、陽馬との思い出が眼裏をよぎって、香澄は削除していいかと問うダイアログボックスのキャンセルボタンを押した。
陽馬との間に重ねた儀式の回数は、100をくだらない。
でもそれは、香澄の卵に到達した精子はいないと通告された数と同等でもあった。
40歳目前の香澄がコツレサマになれる兆候はいまだ現れない。
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