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コツレサマはえらい。 コツレサマはすばらしい。 コツレサマは女の鑑。 コツレサマは。 称賛の言葉が延々と並ぶ。 その言葉は、同時に香澄を容赦なく斬りつける無数の刃。 拍手の音が耳を叩き、香澄は潤みを失った自分の手が拍手しているのを漫然と視界におさめた。 その中央には、後輩の紗英が白い頬を紅潮させて、周りから祝福を受けている。 「宝田さんのプレゼンがH社に採用されました。これから試験的に、特養ホームに伺う機会が増えますので、社員の皆さんもそのつもりでコツレサマほやほやの宝田さんのフォローをお願いします」 ぱらぱらと「よろしくお願いします」という言葉が聞こえる中で、香澄は暗い目で紗英の腕を見た。 そこにはスリングに包まれ、ぷっくりと餅のような頬をさらした生後一ヶ月のオコがいる。 拍手の音に目を覚ましてぐずり始めている。 早くあやしてあげないと、そのうち火がついたように泣き出してしまう。 でも紗英は周りからの労りや励ましの声に応えるのに夢中でまだ気づいていない。 自分ならオコが泣き出す前に社内に設けられたコツレサマ専用ルームに行くのに。 自分ならオコのことを一番に察してあやしてあげるのに。     
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