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御裾分け
都会の駅前には、駅の利用者に声をかけようと色々な人が集まってくる。
宣伝入りのティッシュ配りなんてまだいい方だ。
迷惑なのは良くわからないアンケート調査だったり、聞いたこともない団体の募金活動だったり、いかがわしいお店への勧誘だったり。
悪質なものになると無視する人にも付きまとい、なんとか成果を得ようとしつこく話しかけてくる。
特にタチの悪いのが、得体の知れない宗教の勧誘だとEくんが言った。
「うちの学校の最寄り駅に変な宗教の人が出るって噂があってさ。それがやばいんだよ」
大きな宗教は勧誘活動にもきちんと方針が出来ているので、人目につく駅前で早々無茶はしない。しかし、Eくんいわく『失うものがないような新興宗教』は高確率で危険だと学友たちの口の端に上っているらしい。
Eくんも実際に一度、聞いたこともない宗教の信徒さんに声をかけられたことがあるそうだ。
「あなたのためにお祈りをさせてください」
開口一番、信徒さんはそんなことを言ったという。
Eくんは面倒くさいなぁという気持ちはあったものの、その信徒さんがとても可愛らしい女性であったことと、これは話のネタになるかもしれないという好奇心でお祈りされることを承諾した。
Eくんが頷くと女性は礼を述べ、肩掛けカバンから水筒を取り出した。
そしてコップとして使えるようになっている蓋を足元に置くと、透明な液体でそれを満たす。特に異臭などはなく、Eくんはただの水だと思うと言っていた。
女性は手を合わせて縄跳びでもするように小刻みに、三度その場で跳ねる。そして上半身を右側に傾けて、ニコリと笑って一礼した。
その仕草がひどく気味悪く、Eくんは氷を背筋に入れられたようにぞっとした。
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