この紛れもない事実

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 夏奈は愛想笑いを返すとしずしずと窓を閉めた。  ナツダイダイ急がなくていいから、と孔雀の声が聞こえた。  窓を閉めるとさっきより仏間の室温が上がっているような気がする。  閉め切ったこの部屋で穴を掘ることを想像しただけでまた汗が吹き出した。  夏の間は無理だ。  夏奈は台所に行くと冷蔵庫の扉を開ける。  中から炭酸水を取り出しペットボトルのままがぶ飲みした。  あの孔雀……。  出そうになったげっぷが喉に引っかかり痛みを感じた。  もしかして全てお見通しなのではないか?  夏奈と亮の不仲を前々から知っていて、昨夜庭でシーツにくるんだ亮を引っ張っている夏奈を目撃したのかもしれない。  だからさっきあんなにじろじろ倉庫の方を見ていたり、亮に夏みかんを持って来させようとしているのだ。  そして想像力をめぐらし死体をどこに埋めるか推理した結果仏間を突き止め、わざと目の前の部屋に自分の書斎を移した。  恐ろしい想像力だ。  でも亮に夏みかんを持っていかせたらそざかし驚くだろう。  その姿を見たくもあるが。  思わず口元が緩む。お腹がぐーっと鳴った。  朝起きたばかり、あの亮が出現する前までにあった食欲が戻ってきた。  味噌汁を温めなおし、冷蔵庫からおかずの入った皿を取り出す。  ご飯をよそい、一心不乱に食べた。  考えに考え抜いた結果、2人目の亮を殺すのは夏が終わるまで待つことにした。  孔雀の目を盗んで死体を埋めるには仏間以外ない。  庭で夏みかんをもいでいると亮が帰ってきた。  帰ってきやがったか。  帰ってくるとは思っていたが、やはり落胆した。 「おかえり、どこ行ってたの?」 「うん、ちょっとそこまで」  亮は夏奈の腕に抱かれた夏みかんを見ている。 「これ後からお隣さんに持って行ってくれる?」 「いいよ、今行こうか?」  亮は家の中に入ると紙袋を持って出てきた。
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