この紛れもない事実

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 目の前に便座が上げられたままの便器が飛び込んでくる。  黄色い尿のシミがこびり付いている。  もう1度殺す(やる)しかない。  でもそれでまた3人目が現れたらどうする。  その時はその時だ。  このままではこっちが生きた心地がしない。  それじゃ亮と立場が逆ではないか。  夏奈はそっとトイレから出た。  息を潜めて亮が家にいないか確かめる。  それからもう1度倉庫へ行き、冷凍庫の中の亮を確認する。  窮屈そうに丸くなった亮。  もう1人の亮をここに押し込めるスペースはない。  それにもしかしたら3人、4人と増える可能性もある。  念のため冷凍庫にカビ臭い毛布をかけその上に薬局屋のカエルの人形を乗せた。  今回はもっと計画的にやろう。  睡眠薬を飲ませて電気コードで絞め殺すところまではいい。  殺した後の死体の処理について考えてから実行しなければ。  いろいろ考えたがやはり家の敷地内に埋めるのが1番バレないという結論は同じだった。  何しろ今回は2人分だ。  家の外に持ち出し処理するのは不可能。  そういうのは持ち家を持っていない犯人がすることだ。  犯人。  そうだ自分は殺人犯なのだ、それも夫殺し。  ふとある考えがよぎった。  もし亮が宇宙人だったとしても、夏奈は夫殺しの罪に問われるのだろうか。  だがその前に亮がどうやって宇宙人だと証明するのだ。  誰がそんなことを信じよう?  夏奈が狂っていると思われるのがおちだ。  それにそんなことをしたら運良く精神異常で無罪になったとしても一生精神病院の檻の中だ。  昔読んだ本の内容が頭によぎる。  『ルポ!これが精神病棟の実体だ!』というタイトルで人を人として扱わない酷すぎる精神病院のノンフィクションだった。  刑務所の方がマシかも知れない。  急に恐ろしくなった。
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