この紛れもない事実

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 もう1人の生きている亮が家の中にいるのにどうやって穴を掘るというのだ。  あれがいなくて冷凍庫の亮1人だけだったら完璧な計画だが。  そうだ、別に2人一緒じゃなくて1人1人埋めればいいじゃないか。  とりあえず冷凍庫の中の亮はあのままにしておいて、今生きている亮を殺して穴を掘って埋めればいい。  1日で穴が掘れるだろうか?  たとえ数日かかったとして、この際多少亮が腐敗したっていいじゃないか。  よし、そうしよう。そうとなればどの部屋に亮を埋めるかだ。  夏奈は家の中を歩き回った。  結果として仏壇のある6畳間が一番良いように思えた。  仏間に死体を埋めるなんて不謹慎だが、夏奈が普段あまり使わないのはその部屋だけだった。  さすがに死体が埋まっている上で食事をしたり寝たりするのはいやだ。  試しにちょっと畳を剥がしてみよう。  数分間夏奈は畳と格闘する。  尋常じゃない汗が体中から吹き出る。 「暑いっ」  夏奈はたまらずに窓を開けた。  目の前に生垣が迫り、その向こうに隣の家の窓が見えた。  ガラリとその窓が開く。 「あらっ」  手に風鈴を持った孔雀と目が合った。 「いつも使ってる書斎は暑すぎるから、夏の間だけはこっちの部屋で書こうと思って」  北向きで日当たりが悪いせいか、目の前の生垣は貧弱でほとんど目隠しの役割を果たしていない。  孔雀は窓に風鈴をぶら下げると、指で触れてチリンと鳴らした。  家にエアコンつけろよ。  夏奈は心の中で毒づいた。  そういう夏奈の家にも1台のエアコンもなかった。  祖父母が嫌ったのもあるが、夏奈も同じだった。 「わたしエアコンは苦手でねぇ、それに夏はやっぱり風鈴。物書きとしてはそういう感性を失ってはねぇ」  ミステリー作家にそんなもん必要なのか。
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