デーモン

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デーモン

「夏みかんあげてきたよ」  その後何をした。それだけでは時間がかかり過ぎだろう。 「今日の夕飯俺が作ろうか」  夏奈の言葉を待たずして亮は台所へと消えた。  夏奈は台所に立つ亮をそっと廊下から盗み見る。  冷蔵庫から豚肉を取り出している。  あの手で孔雀をやったのだろうか?どうやって?自分がしたように絞め殺した?それとも……。  亮は豚肉を切ろうとして手を止めた。  包丁の刃をじっと見つめ、おもむろに砥石を出すと包丁を研ぎ始めた。  刺し殺したのだろうか?でもそうだったら返り血を浴びているはずだ。 「夏奈」  背中を向けたままの亮から声をかけられ、体が跳ねる。 「居間でテレビでも見てていいよ」 「え、い、いや、わたしお風呂掃除でもしてくる」  亮は絶対に孔雀をやったはずだ。  夏奈は知っている。今のように妙に亮が優しい時、それはいつも亮が激しい感情を爆発させた後だ。  それは夏奈に暴力をふるった後だったり、外で女を抱いた後だったり。  あれはどこへ行ってもクリスマスソングがかかっている12月だった。  夏奈がうっかり亮の大切にしている鍵を捨ててしまったのだ。  鍵といっても普通の鍵ではない。  亮には変な収集癖があった。それはコンビーフを開ける時に付いているあのおもちゃのような鍵だ。  亮はそれらを大切にブリキの菓子箱に入れて集めていた。  亮曰く、メーカーによって鍵の形が若干違うそうだ。  夏奈には皆同じに見えたし、それだったら違う形の鍵をそれぞれ1つずつ取っておけばいいものを、亮は同じものでも大切に取っておいた。  その晩、夕食にコンビーフチャーハンがあるのを見て亮は夏奈に手の平を向けた。 『はい、鍵』  取っておいたと思った鍵はどこを探しても見つからなかった。  小さなものだから野菜くずと一緒に捨ててしまったのかも知れない。  亮の機嫌を損ねるのを恐れて生ゴミを漁ってみたがない。
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