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今のミカエル亮はまるで出会ったあの頃のままの亮だった。その亮は夏奈の後悔をじわじわと刺激する。
ミカエル亮が現れなければ多少の後悔はしてもそれなりに夏奈の中で言い訳をかき集め、殺してしまったことを正当化できたのに。今の亮さえいなければ、もっと楽になれたのに。
封印していた問いが頭をもたげる。
あの亮はいったい何者なのだ?いや、あの亮は確かに自分の知っている亮だ。亮のいいところだけを残したような亮。
あの亮は本当に存在しているのか?無意識に夏奈の願望と後悔が生み出した幻想なのではないか?もしかしたら夏奈は亮を殺した時から狂ってしまっているのか?全ては幻か?
幻は冷凍庫の中の亮であってくれたらいいのに。あの亮さえいなくなってくれれば、夏奈はミカエル亮と平穏な毎日を過ごしていける。それこそ昔夏奈が望んだ結婚生活そのものだ。
夏奈は大きく息を吸った。
やり直そう。
冷凍庫の中の亮を始末して、なかったことにするのだ。あの亮を幻にしてしまうのだ。
夏奈はサンダルを引っかけ外に出た。眩しい太陽が照りつける。
倉庫の扉を開ける。一瞬倉庫の中は真っ暗に見えたが、目が慣れてくると次第にガラクタ類の形がはっきりしてくる。
冷凍庫のある倉庫の隅に目をやったとき、背中がひやりとした。
カエルが夏奈の方を見ていた。
昨晩、確かに後ろを向かせたカエルが正面を向いていた。
居間から聞こえてくるゲーム音を聞きながら夏奈は布団の中で寝返りを打った。
亮は知っている。あの冷凍庫の中に何が入っているかを。
わずかに玄関の方で物音が聞こえた。
夏奈は布団から抜け出すと、足を忍ばせこっそりと居間を覗いてみた。
付けっ放しのテレビの前には誰もいなかった。
そのまま外に出る。この前と同じように倉庫から懐中電灯の光が漏れている。
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