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夏奈に歩調を合わせて歩く蒲田に夏奈は尋ねた。
「いつから蒲田さんは亮と親しく?」
自分以外にデーモン亮とミカエル亮の変化に気づいている者がいないかどうか気になった。
「最近ですよ」
なんとなくそうだろうとは思ったが、少し落胆する。蒲田はミカエル亮しか知らないというわけだ。
「この前初めて現場が一緒になって、いつもコンビニ弁当ばかり食べてる俺に、亮が声をかけてきてくれたんです」
「なんて?」
「これちょっと食べるか?って。で、それがあまりにも美味しくて、俺、味をしめちゃって、すみません、それからずっと夏奈さんの作った弁当をもらって食べてました」
デーモンだ。亮は最初からすべて知っていたのだ。蒲田に近づいたのは弁当を食べさせるためだったのかも知れない。
ここに自分と同じように亮の罠にかかった人間がいる。
「夏奈さん、大丈夫ですか!」
気づくと夏奈は道端にうずくまっていた。
家まで送りましょうと言う蒲田の言葉に夏奈は激しく首を振る。
「少し休みたい……」
「じゃあ俺の家、すぐそこなんで後から亮に迎えに来てもらいましょう」
差し伸べられた蒲田の腕に夏奈はしがみついた。
ワンルームの蒲田の部屋は殺風景で部屋の隅にダンボール箱が積み上げられていた。
「本当にご迷惑かけてすみません」
蒲田はペッドボトルの麦茶をグラスに入れ、夏奈の手に握らせる。亮に連絡しておこうと言う蒲田に、自分でするからと夏奈は断る。
「最近引っ越しされたんですか?」
黒猫が印刷されたダンボールを見ながら夏奈は尋ねた。
「いや、その逆です。実は仕事も今日が最後でした」
別の仕事で小さな離島に行くのだと蒲田は言った。
「昔から海の近くで働くのが夢で」
蒲田らしいと思った。
「せっかく亮と夏奈さんと知り合いになれたのは嬉しいんですけど」
「わたしも行きたい」
「え?」
「わたしも蒲田さんと一緒に離島に行きたい」
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