潜む暗い影

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 死体が埋まっているこの家を誰かに貸すわけにもいかず、とりあえず夏奈が落ち着くまで部屋を探すことになった。  周りに言い訳しやすいように、奏の職場に近い所にすることにした。 「戻って来たくなかったら戻って来なくてもいいさ」  奏は夏奈のお腹に耳を当てた。  戻って来なかったらこの家はどうなるのだろう。夏奈と奏が死んだ後、この家の権利は2人の子どものものになる。もしその子がまたはその子の子が、あの家に住みたいと思ったら、その頃には今以上にあちこち痛んでいるに違いない。人が住めるような状態じゃないだろう。家を建て替えたりしたら、土を掘り返されたら。 「夏奈、今からそんな先のことまで考えても仕方ないよ。とにかく今は夏奈が安心して赤ちゃんを産むことだけを考えよう」  そうだね、夏奈は頷いた。  引っ越し先はすぐに見つかった。奏の職場から3駅、今の家から40分ほどのところだった。1DKのアパートは子どもが大きくなっても十分な広さがあった。だとしても、一軒家の荷物を全て1DKに詰め込むことはできず、必要なものだけを厳選して持って行くことになった。  いつでも戻って来れると分かっていても、実際には数年間しか住んでない家だが、祖父母との思い出の残るこの家を離れるのは少し寂しい気がした。  それと同時に亮と過ごした禍々しい時間、仏間の下に亮が埋まっていることを考えると、今すぐにでもここから逃げ出したい気持ちにかられもした。  そして今は後者の気持ちの方が強かった。  引っ越しの前日、夏奈は孔雀のところへ挨拶に行った。孔雀からタイ旅行のお土産を貰った以来ぶりだった。  夏奈が引っ越すことを知ると孔雀は断る夏奈の腕を引っ張り家に上らせた。  変わった味の和菓子と暖かい麦茶を出される。 「赤ちゃんが生まれたら見せに来てね」  孔雀が微笑むとしわの中に目が埋没した。そんな孔雀はただの変わり者の初老のお婆さんだ。夏奈でさえ分からなかった、亮と奏の存在を気づくような観察眼が鋭い人にはとても見えない。
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