ファンレター

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  ******************** 「……ピピピ、ピピピ、ピピピ………」  十一月上旬朝の五時半、軽快な電子音が重々しい一日の訪れを告げる。身体中が起きたくない、と声をあげるが鞭打ってでも起きなければならない。 「…………起きなきゃ……。」  今日もいつもと変わらない一日が始まる。顔を洗い朝食を取り、荷物や着替えなどの準備を全て終えて俺は冷えきった街中へと足を踏み出す。流石に十一月にもなると朝の風は身体にこたえてくる。俺は遅い足取りで昔から変わらない商店街を通り駅へと向かう。 「山下君、看板はもう出しといてー。」 「わかりましたー。」 「藤木さん、おはようございます。」 「あら斉藤さん、おはようございます。」  商店街の人達はこんな季節でも笑顔で1日を迎えている。隣町に大きなショッピングセンターが出来たというのに、いつもと変わらない元気を見せている。ここの人達は俺が子供の時からそうだった、いったいどこにそんな元気があるというのだ。 「あ、お兄さんおはようございます。」  隣からそう聞こえた。最初は俺に向けて言ったのだとは思わなかった。俺の隣にいたのは高校生くらいの女の子だった。 「あ、お……おはようございます。」  突然の挨拶に完全に動揺してしまい変な声になってしまった。逃げ出すように俺は早足で歩きだしていた。後ろで何かが聞こえたような気がしたが構わず歩き続けた。
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