ファンレター

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 今日の仕事が終わったのはいつも通りの夜10時。その時間までオフィスに残っているのはたったの数人しかいない。もちろん上司はいない、先に帰っている。別に何とも思ってはいない、それが当たり前なのだから。  疲労困憊した身体に力を入れて立ち上がり荷物を持って歩き出す。まだ残る社員達に頑張れ、と一言言い残してから退社する。  がらんとした電車に乗り、仮眠を取りながら帰宅する。幸い自宅は終点の町にあるので寝過ごす心配はない。そしてすやすやと眠りに着き電車は終点に着く。何とか自力で目を覚まし電車を降り、駅を出る。自宅への道のりは駅の前の商店街を突き進むだけでいい。  夜の商店街は朝と違い静寂に満ちていた。ほとんどの店は閉じていて、まだ営業している店からは微かに灯りがついていたり曲が漏れたりしていた。そんな事に興味も向けずに俺は家路を急ぐ。  歩き続けていると目の前に小さな団地が見えてくる、そこに俺の家がある。鍵を開けて家の中へとはいる。そこで全ての力が抜けそうになるがまだ堪える。荷物を置いて服を脱ぎ浴室へと向かう。寝る時間も考慮するとそう長くは入れないため、シャワーだけで今日一日の汚れを落とす。ずっとこのままでいたいと思ってしまうがそんな考えは捨て去る。シャワーを浴び終えて部屋着に着替え、寝室にむかう。  目覚ましをセットしてまた明日から始まる日常の準備をし終えてからようやく自由に眠れる。また明日のために。  「……ピピピ、ピピピ、ピピピ………」 軽快な電子音がまた一日の訪れを告げる。また、日常が始まるのだ。
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