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気まずく長い沈黙。どちらからも話題が出てこない。結局医者が来るまでさっぱり話さなかった。医者は白衣をうっとおしそうに下げて父親の横についた。
「ただ余命が二カ月だからと言ってもそれが必ずではありません」
つまり治療はしてくれるらしい、ということだった。
「お仕事は、劇場のオーナーとのことですが」
「……え? オーナー?」
父親は視線を、何も入っていない花瓶に移した。
「ちょっと、聞いてないんだけど。ねぇ」
「……演劇ホール、買ったんだ」
「はぁ? 」
演劇、と聞くと千奈美には嫌な思い出が沢山ある。自分を構わず死ぬまで下町で演劇を続けた女優の母親。その演技に惚れ込んで結婚し、休日と給料を演劇につぎ込んだ父親。千奈美に初めてできた彼氏は演劇部に所属していて、半年後に控えた公演の後にデートしようなんて甘いことを言われたが、その前に演劇部の女に彼氏を取られた。
「……で、私がオーナーの代わり?」
「頼む、鍵の開け閉めだけでいいんだ」
明日に公演を控えた劇団は父親がとても目をかけて可愛がっている劇団で、やっと売れ出したところだという。
「あの劇団だけでいいんだ。明後日まででいい。見届けてほしいんだ」
「そんな、私……だって」
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