試乗をどうぞ

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試乗をどうぞ

 都会は交通機関が発達していて、朝早くから日付が変わるくらいまで電車もバスも走っているし、本数も多いから乗り遅れてもたいして困らない。公共の交通機関任せで充分不便のない生活ができる。  でも田舎暮らしはそうはいかない。  バスや電車も使う時は使うけれど、車がなければ大抵の場合生活が成り立たない。  だから必然的に、メンテナンスなどで車の整備工や車両販売会社と懇意になるのだが、前に噂で聞いたんだ。販売会社が、粗品の贈呈やメンテナンス割引をするので、ショールームで行われるキャンペーンに来て欲しいと、ハガキなどで通知をしてくることがある。その時、やたらと試乗を勧めてくる店舗とは、あまりお近づきにならない方がいいと。  しつこく試乗を勧めるというからには、そこのディーラーはかなり押しが強いのだろう。その押しに負けて、まだ不要な新車でも買わされるのだろうか。あるいはいくつも車両保険に加入させられるとか、豪華すぎる高額メンテナンスを受けることを承諾してしまうとか、考えられることはいくつもあった。でもそんなのは、こちらが断固として受け付けなければいいだけの話だ。  必須というだけでなく元々車は好きなので、試し乗りをしていいと言うなら色んな車に乗ってみたい。俺はそういうタイプだから、むしろ試乗は大歓迎。いくらでも勧めてくれと思っていた。  でも今回、試乗の勧めにはたやすく応じない方がいい理由を身を持って知ったんだ。  友達が、そろそろ車を買い替えたいと言い出し、お前は車に詳しいから同行してくれと、一緒に店に行くよう頼まれた。
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