チョコじゃなかった

バレンタインデーかあ、もう何年も、いや、何十年もチョコなんて貰ってないな。
奥さんからでさえ・・・

そう言えば奥さんからチョコ貰ったことあったっけ？

ん～、思い出せない。

「はい、これ、バレンタインデーだから。」
といって結婚前にもらったのはグレーの手編のセーターだった。
若い頃の奧さんはショートカットでスリムでボーイシュな女の子だった。

「間に合ってよかった。かんばって編んだのよ。初めてだからあんまり上手く出来なかったけど。」

「ありがとう。」

バレンタインデーにはチョコでしょ。と思ったが、まっいっか。

今はもう、すっかり奥さんとの間は冷えきって、ろくに口も効かなくなっている。
今更チョコなんてもらえないよなあ。

そう言えば、あのときのセーターどこにあるのかなあ。何年か前に探したけど見つからなかったっけ。あの頃、別の子からもセーター貰ってて結婚したときに処分したけどまさか一緒に棄ててないよな。

家に帰ったらもう一度探そう。無くしたなんて言ったら土下座もんだ。

家に着くと、いつものように、奧さんはいない。

ふと見るとテーブルの上になにかある。
まさかチョコ？

メモがおいてあった。
「あのセーターどこにある？」と書かれていた。

とても寒い夜だった。