1 コスモクロック21

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1995年4月1日  横浜、馬車道の映画館の前で、恋人の直樹を待っていた。 今日は土曜日。 家族連れやカップルなど広い歩道をたくさんの人々が行き交い、とても賑やかだ。 ここから少し離れたみなとみらい地区では数年前から開発が進み、次々と新しいビルが建てられているが、街としてはまだ未完成で、休日にデートをするなら伊勢佐木町や石川町、中華街やここ、馬車道に来ることが多かった。 直樹とは高校卒業と同時に付き合い始めて、恋人というより今は婚約者。 一か月後にここ横浜で結婚式を挙げることになっている。 今日は結婚指輪が出来上がる日だった。 ランドマークの中の宝石店で注文した指輪を、私も一緒に取に行くと言ったのに、直樹は自分が行くから香織は映画館で待っていてと言って、一人で行ってしまった。 いつもは私の言う事を何でも聞いてくれる優しい直樹がこういうことを言う時、私は素直に受け入れることにしている。 きっとサプライズ好きの恋人が、今日のデートを盛り上げるために何かを準備しているのに違いない。 ロマンチストの直樹のことだから、夜景の見えるレストランとか、もしかしたらクルージングとか…。 記念日でもないのに、さすがにそれはないか。 一人でこっそり笑っていると、映画館のポスターが目に入った。 ちょっと寂しそうな男の人が一人でポツンとベンチに座っている、大きなポスターだ。 「フォレスト・ガンプ」。私がずっと見たかった映画だった。 腕時計を確認すると、待ち合わせの時間からすでに二十分が過ぎていた。 「遅いなぁ」 待ち合わせで直樹に待たされたのは初めてだった。 いつだって私よりも先に来ていて、待たせた私を怒ることもなく笑顔を見せてくれる。 今日遅刻したとしても何か理由があるはずだ。 私も笑って迎えなければ。 そう思っていてもカチカチと進んでいく時計の針に、心配が募ってくる。
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