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この時も直樹は「香織が一番気に入った所にしよう」と言ってくれた。
競争率の高かった角部屋の4LDKを見事に獲得し、内装やオプションを選ぶ時も丁寧に説明を聞いてから私に選ばせてくれた。
「大丈夫?全部香織の思い通りになってる?」
いつもの優しい声で確認されるたびに、本当に甘やかされていると実感する。
引越しをして子供たちも入園、入学と大きく育ち、家族の写真が増えていく。
運動会や遠足。ピアノやダンスの発表会。学校行事はいつも二人一緒にビデオカメラを持って出かけた。
昼間の時間に余裕が出来ると、私は近所のお友達に誘われてパッチワークを始めた。
昔から細かい手作業が好きだった。
パイン材などのアメリカンカントリー調の家具に合わせた、少しレトロな色調のパッチワークキルトは家の中を暖かく彩ってくれて、私は夢中になった。
やがて子供たちは中学、高校と思春期に突入していくが、心配していた反抗期なども無く、誕生日やクリスマスは家族全員でお祝いし、年に一度の家族旅行も欠かさずに出かけた。
結婚記念日だけは毎年二人で食事へ行った。
直樹が予約してくれるお店はいつも素晴らしくて、私は毎年楽しみだった。
相変わらず外では私をエスコートしてくれる優しい直樹。
近所の奥様達からも羨ましがられるほどの、完璧で自慢の夫だった。
そして、月日は経ち――
約束の日を迎える。
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