4 観覧車で

5/5
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
「あ!そうだった。あの時ね」 「一目ぼれだった」 「え!うそ」 「そうなんだよ。だから俺の方が先だけど、大輔はもっとずっと前から香織のことを…」 「もうやめて。私は直樹を選んで25年間幸せだった。そしてこれからも。どんな時でもずっと直樹と一緒だよ」 「…そうだな。俺は香織と結婚して子供が出来て、一緒に育てて毎日笑って。本当に幸せだった」 しみじみとそう言うと、直樹は私の顔を覗き込むようにしながら言った。 「最高の人生だよ。香織、幸せな時間をありがとう」 直樹の長い両腕が私の肩にまわり、ぎゅっと抱きしめられた。 私も直樹の背中に腕を回して、私たちは小さな箱の中で一つになった。 その時ゴンドラがちょうどてっぺんに来たようだった。 360度視界を遮るものが何もなくなって、私たちは天空に浮かび上がった。 「香織、愛してる」 甘い甘い直樹の声。 思わず目を閉じた次の瞬間、唇が重なった。 その時、閉じた瞼の裏に無数の流星が降り注いだ。 「え?」と思っているうちに左の掌の中に、何かが滑り込んできた。 丸くて、固い…小さな金属。これは… それ以上何も考えられないまま、私の瞼の裏を埋め尽くした流星の光がスパークして、何もかもがわからなくなった。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!