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はっ!と気が付いた時、雑踏にたたずむ自分がいた。 さっきまで私は観覧車に乗っていたのに。 ここはどこなの?直樹はどこ? キョロキョロと辺りを見回すと、唐突に表れたはずの景色は見覚えのあるものだった。 「ここは…え、でもどうして?」 広い歩道の片隅に立つ標識には「馬車道」の文字。 左側には大きな映画館がある。 待って。この映画館は確か数年前に閉鎖されたはず。 ニュースで知った後に、懐かしい場所で最後に映画を観ようと、直樹と来た覚えがある。 時間を見ようと無意識に左の手首を見ると、腕時計が16時20分を差している。 「この腕時計は…」 それは父が就職祝いに買ってくれた、鼈甲のブレスレッド型の腕時計だった。 何年も前に壊れたままドレッサーの引き出しに入っていたはずだ。 一体何が起こっているの? 私は映画館の隣のビルのショーウィンドーの前へ行き、そこに映した自分の姿を見て愕然とした。 白いハイネックのニットの襟元には、ティファニーのビーンズ。 これは直樹が初任給で買ってプレゼントしてくれた思い出のネックレスだった。 肩にかかったエルメスのスカーフも、黒のミハマのパンプスも…。 私があの日、直樹とのデートのために選んだもので。 それになによりも私の顔が… 「若い…眉毛ふっと」 古臭いメイクにかつて爆発的に流行った髪型ではあるけれど。 たまご型の白い顔にはしわもくすみも一つもない。 ここにいるのは間違いなく25歳の私だった。 …一体これはどういうことなの?
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