7人が本棚に入れています
本棚に追加
待ち合わせの場所を離れるわけにもいかず、私は一生懸命背伸びをして人混みの中に長身の恋人を探した。
「香織!」
突然真後ろから声が聞こえて振り返ると、そこに直樹が立っていた。
「遅くなってごめん」
「…もう!何してたの?心配したんだから」
さっき笑って迎えようと思っていたことはすっかり忘れて、不機嫌な声を出してしまう。
「ごめんごめん。遅くなったからタクシーに乗ったら渋滞にはまっちゃってさ」
顔を見たら安心して「いいよ、仕方ないね」と言ったけど、恨みがましく映画館のポスターに目をやると直樹はまた謝った。
「本当にごめん。映画はまた今度にしないか?絶対埋め合わせするから」
長い腕を私に伸ばすと、右手で私の左手を繋いできた。
薬指にしている石の付いたリングをそっと撫でられて、急に照れくさくなる。
「ん。いいよ。今日はどうする?」
「お任せください。お姫様」
握った左手を持ち上げて自分の口元に持って行こうとするのを慌てて止めた。
「もう。恥ずかしいからやめて」
「はは、誰も見てないよ」
私たちは手を繋いで歩き始めた。
埠頭に向かい、赤レンガ倉庫を眺めながらおしゃべりをする。
話すことはたくさんあった。
来月の結婚式や新婚旅行の話、新居や新しい家具の事。
お互いの仕事の事や休暇が何日とれるかなど不安なこともあったけれど、直樹はどんなことでも真剣に聞いてくれて、私の不安を一つ一つ消してくれようとした。
「大丈夫?全部香織の思った通りになってる?」
ドレスやブーケや招待状、お料理に引き出物…。
式場任せじゃなく、全部自分でこだわって進めて来たのは確かに私だけれど。
改めて聞かれると、そんなにわがままばかり言っているだろうかと心配になる。
「うん。でも直樹が思ってることもちゃんと言ってね」
「わかった。でも俺は香織が好きなようにしてほしいんだ。女の子には一生に一度の夢だろ?結婚式は香織を幸せにする第一歩だからね」
最初のコメントを投稿しよう!