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四月の海風はまだ冷たくて、途中でコーヒーを買って飲んだ。
風になびくロングソバージュの私の髪を大きな掌ですくう直樹。
「寒くない?」と言って自分のジャケットを脱ぎ、私の肩に掛けてくれる。
「ほんと、直樹は王子様だね」
「そりゃ目の前にお姫様がいればね」
そう言ってジャケットごと私の肩を抱いた。
夕日が沈むのを見てから「そろそろ行こう」と言って歩き出す直樹に「どこへ行くの?」と聞くと「お楽しみ!」と言って笑った。
向かったのはヨットの帆の形をしたホテルのレストランだった。
エレベーターを待ちながら、私が返したジャケットをきちんと着ている直樹に「私、こんな恰好なんだけど」と自分を見下した。
直樹は笑って
「大丈夫だよ。カジュアルなレストランだし、香織はいつも可愛いよ」
「そのセリフ、いつまで言ってくれるのかな?」
「いつまででも!」
にっこり笑うその笑顔に、結局つられて笑ってしまう。
エレベーターが止まると、直樹は私をエスコートするように手を伸ばした。
直樹が言う通り堅苦しいレストランではなかったけれど、グラスワインで乾杯して夜景を見ながら頂くイタリアンはやっぱり高級だった。
「贅沢しちゃったね。結婚したら節約するよ」
「はいはい。香織の好きなようにしていいよ。手料理も楽しみだし、毎日お弁当でも大歓迎」
「なにげにハードル上げたでしょ」
「いやいや、どんな毎日でも俺にはご褒美だから」
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