1 コスモクロック21

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あれって?と直樹が指差した方を見ると、それは観覧車だった。 六年前の横浜博覧会の時からここにあるその大きな観覧車は、「コスモクロック21」という名前で、今では横浜のシンボルのような存在だ。 「いいね、乗りたい」 最初からそのつもりだったのね、と催促してしまったことをちょっと後悔した。 ロマンチストでサプライズが大好きな直樹。 あの小さな箱の中でどんな甘い言葉を言ってくれるんだろう? レストランを出ると、私たちは観覧車に向かって歩き出した。 近くで見ると、本当に大きい。 名前の通り中央に大きなデジタル時計が設置されていて、放射状の支柱が時計の針のように光って時を刻んでいる。 少し並んでゴンドラに乗り込んだ。 直樹は私の隣に座ると、バッグから小さな水色の紙袋を出した。 思わず息を飲む私に笑顔を向けて、中から四角い箱を取り出した。 ふたを開けるとプラチナの指輪が現れる。 「綺麗!」 中央にぐるりと小さな石の粒が並んで輝いている。 私の左手を取ると、エンゲージリングの上から重ねて薬指に嵌めてくれた。 うっとりと自分の手を見つめる私の目の前にもう一つの箱を出すと「俺にも嵌めて」と言ってふたを開けた。 お揃いのデザインだけど石がないタイプの指輪を手に取って、直樹の左手の薬指に滑らせる。 男の人にしては細い直樹の指は、「なんか緊張する」と言った私よりももっと緊張しているみたいに小さく震えていた。
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