黙って私についてこい。

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 今時の女子でも、こういうことをしたりするものなのか。下駄箱を開けた瞬間、バラバラと落下してきた大量の小箱に俺はややドン引きした。確かに、今日はバレンタインである。そして、自分で言うのもなんだが俺はモテる。その自覚はある。小学校から高校の現在に至るまで、女子からの貢ぎ物が途切れたことはない。時々、髪の毛が入っているようなヤバイ食べ物もあったりはするけども。 ――ラブレターはまだわかるけどさぁ。さすがにチョコを靴箱に入れちゃうのはどーなのよ……。  多分、違うクラスの女子なのだろう。一応一つ一つ名前は確認していくが、やはりどれも知らない名前ばかりだった。ひょっとしたら学年も違うのかもしれない。帰宅部の俺は、どうしても一年生と三年生に知り合いが少ないのだ。二年生で同じクラスの女子なら多少顔と名前が一致するが、クラスが変わった時点でそれもだいぶ怪しくなってくる。学年が違えばもっと、だ。 ――俺が名前を認識してないってことはさ、会話もしたかどうかの相手ってことだろ。……なんでそんな奴のことを本気で好きになったりするのかね。  入っているチョコの大半が本命であることは、例年のバレンタイン騒動でよくわかっている。だからといって、こっちはどうするというわけでもないのだけれど。食べ物を粗末にするわけにはいかないから、ヤバイものでない限り家に持ち帰って家族と食べるが、それだけである。――顔もわからない相手に、返事なんてしようがないではないか。  そもそも俺は、一目惚れというものを根本的に信用していなかった。俺だって好みの顔くらいはあるが、顔だけで付き合えるのは最初だけなのである。いくら見た目が可愛くたって、常時気を使わなければならないタイプやワガママし放題なタイプ、趣味が全く合わないタイプとは仲良くなれる自信がない。価値観の違いなんてもってのほかだ。付き合ってもすぐバイバイする羽目になるくらいなら、最初から付き合う意味もないではないか。  第一、これでも俺には現在進行形でカノジョがいる。他の女に告白されても、それに応えるという選択はないわけで。
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