黙って私についてこい。

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「遅いぞケータ!」  そのカノジョは。竹刀をがっつり肩に背負って、正門の前で仁王立ちして待っていた。去年から付き合っている剣道部のサムライ系女子ことナギサである。美人でない――とは言わないが、とにかく背が高い。高校二年生男子の平均身長の俺よりもずっと高い。そしてムキムキだ。セーラー服から伸びた二の腕は、はちきれんばかりの筋肉でぱつぱつとなっている。  筋肉系女子はちょっと、とクラスの友人は言っていた。やっぱり女の子は、可愛くておしとやかで守ってあげたくなるような華奢なタイプがいいよな、と。その気持ちはわからないわけではない。ケータだって以前は“女に筋肉とかいらねーし”と思っていたのである。実際ナギサは、ケータの好みには程遠い見た目の人物だった。脚は細い方がいい、色は白い方がいい、首はほっそりしている方がいい、目は垂れ目でショートカットが好き――ナギサはものの見事に全部逆である。  長い髪を靡かせていても、それがかえって男らしく見えてしまうくらいには――彼女の見た目と行動は、勇ましいものがあるのだ。 「あー……悪いナギサ。職員室で先生に呼ばれてたもんで」 「呼ばれてた?何かやらかしたのかお前」 「やらかしてねーよ。……この間の写生会の絵が入賞したって話聞いてきただけ」 「ほう、それは凄いな!」  彼女は目を輝かせて言う。 「さすが、私が見込んだだけの男だ、才能に溢れていて素晴らしいぞ。確かにお前の絵は、湖の反射まで丁寧に描写されていて美しかったな。うん、そのまま画家の道に行くのはどうだ?」  誉め殺し、という概念が彼女にはない。相手をおだてる、なんてこともできない。良くも悪くも素直で嘘がつけない彼女は、いつも本当のことしか言わないのを知っている。  肩で風を切るように堂々とみんなの前を歩いていくくせに、誰かを誉めるのを全く躊躇わないし、好きなものをストレートに好きと言える彼女。――俺が彼女を好きになったところのひとつは、そういうあたりであったりする。
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