黙って私についてこい。

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「俺にそこまでの力はねーって。……それよりもさ、ナギサ。ひとつ聞きたいんだけど」 「なんだ?」 「今日バレンタインなんだけど、お前からのチョコはねーの?」  ほれ、と俺が予め持参していたお持ち帰り用紙袋を見せると。途端に彼女はわかりやすくムスっとした顔をした。 「……毎回そうやって紙袋を用意してきても無駄にならないあたり、お前はイヤミだな。甘いものなんか大して好きでもないくせにわざわざ律儀に全部回収して。私のチョコなんて渡しても困るだろう?」 「困るか、ばーか」  わかりやすく嫉妬してくる少女の、自分より高い位置にある額をつっつく。 「カノジョから心のこもったプレゼント貰って、嬉しくない男はいないわけです。おわかり?」  だから、ちょーだい?  そうやって甘えた声を出してやると――瞬間、ナギサの顔がタコのように真っ赤に茹で上がった。 「そ、そういう、こと、言うな……」  ムキムキ格闘系女子のくせに――中身はすっかり“オンナノコ”なのだ、ナギサは。照れて恥ずかしがっている顔が本当に可愛らしい。超のつく変わり者だし、しゃべり方も勇ましいが。こうして時折見せてくれる、女の子らしい顔が――そのギャップが。たまらなく好きだと思うのは、完全に惚れた弱味だろうか。 「……これっ!」 「お?なんだ用意してくれてたんじゃん」 「煩いな!とにかく開けろ、この場でだぞ!」 「えー?」  ばしっ!と押し付けられたのは、可愛いリボンつきでラッピングされた箱である。ちゃんとバレンタインデー意識してくれたんじゃないか、と嬉しくなる俺だ。  確かにチョコレートはさほど好きではない。甘いものより、辛いものの方が好きだからだ。しかし。多少苦手意識があろうと、ナギサが自分のために用意してくれたものなら全く話は別なのである。 ――この場で開けろって言っちゃうあたりがナギサらしいというかなんというか……ん?  少し手間がかかったが、なんとかラッピングを破かず箱を開けることに成功する俺。  チョコレートかと思いきや入っていたのは一枚の紙切れだった。なんじゃこりゃ、と思って折り畳まれたソレを開いた俺は。
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