第1章

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 一番ひどい例では、Bくんのいる教室にもう一人のBくんを見たらしい、というもの。  教師が黒板に書いていると、ふっ、と振り向いたらBくんのうしろから徐々にもう一人のBくんが近づいていた、らしい。  全員が目撃したわけじゃなく、かすかにでも霊感がある者だけが見えたようだ。それでも、少なくない人が二人のBくんを見たんだとか。  少しずつ少しずつ、もう一人のBくんがBくんに近付き、やがて背中から彼の中に入っていったんだとか。 「その翌日かな。Bくん、行方不明になっちまってな。あれって何だったんだろうな。警察も出ての捜索になったんだが、未だに見つかってないらしい」  さらに、とAさんは付け加えた。 「ちなみに、Bくんの入ってたカルト教団。あれ、教祖が捕まったよ。皮肉にもBくんがいなくなって数日後だ。多分だが、Bくんも心のどこかで分かってたんじゃないかな。やばい宗教だっての。だけど両親もやってて逃れられないし、彼なりにあの教団も好きだったんだろ。同年代の子も多くいたからな。だけど、教祖は彼を騙し、俺らは彼を迫害した」  もう一度。  と、Aさんは言った。 「もう一度、許されるならBくんに会いたいな」  どうしてですか。  と、わたしは聞いた。今にしてみれば、これは蛇足だが。 「俺も、その噂をしゃべっていた一人さ。被虐的な快感もあった。俺自身はそこまで優等生じゃなかったから、優等生にも闇があるんだと笑っていたのさ」  警備員は数年前に辞めたが、それ以降Aさんとは会っていない。彼が話してくれた話も本当かどうかは定かではないし、警備室で何気ない雑談の一つとして語られたことだ。  それっきり、Bくんの事件が語られることはなかった。  しかし、わたしなりに探してみたところ似たような事件は存在していた。そして、これはやはりという感じだったが、Bくんは今も見つかっていないらしい。  ……ここまで書いておいて何だが、彼は見つけてほしくないのかもしれない。唯一、現世に留まる希望すら許されず、実際にその希望が偽物であったこんなとこ、誰だっていたくはない。  失礼、蛇足であった。 (了)
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