授かり地蔵

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 確かに創業家の御曹司ともなれば、やはり「跡取り」という言葉は、他の家とは違った重みを持つ筈だ。陰に陽に周囲からプレッシャーもかけられるのだろう。 「ぼちぼち二年になるからさあ……やっぱり子供出来ないときついよね」 「産んで、子育てとかする気あんの?」 「まあ、しょうがないじゃん。今の生活維持するためのコストみたいなもんだから。生まれりゃなんとかなるでしょ。それに家政婦とかもいるし」 「……ふーん……」  割り切ったものだ。まあ、彼女らしいと言えば言えるけど。 「不妊治療は?」 「旦那が慎重なのよ。世間体みたいなもの気にしてるみたい」 「別に恥ずかしい話じゃないじゃんね」 「外野が色々うるさいのよ。ジジイやババアは頭古いから。自然なやり方で生まれた方がいいって信じてるみたい。“天然もの”じゃないと駄目だと思ってんじゃない?全く、魚じゃないっつーの」  天然ものには思わず吹いた。とは言え、本当に困っていそうな理沙の表情を見てるうちに、私は、ある噂を思い出した。 「じゃあ、まあ、ダメ元でひとつ試してみる?」 「何を?」 「あたしの実家の方にさ。“授かり地蔵”ってお地蔵さんがあるのよ。そこにお参りして、赤ちゃんを授けてください、って願えば、必ず妊娠するらしいよ」 「本当?それって、なんかいかにもイージーな感じじゃん」     
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