授かり地蔵

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 産んでもらえなかった怨みを抱えたまま、長年に渡って澱み続けていた命がうようよと漂っている場所……そんな所に女性が行ったら、どうなるか。それらの命は、生まれ変わりのチャンスとばかりに、その人の子宮に飛び込んでくるだろう。だから、あそこを訪れた女性は“必ず”妊娠することになる。そして、今度こそは流されまいという凄まじい執念を持って、その小さな爪で彼女の子宮にしがみつくのだ。同時に、流されないうちに成長してしまおうとして、恐ろしい勢いで細胞分裂を始める。怨念に操られた無目的な細胞分裂……それはもはや暴走であり、即ち癌化した細胞の増殖を意味する。小さな爪を立てながらべったりと子宮にへばりついて恐ろしい勢いで増殖する癌細胞……そこを訪れた女性は確かに必ず妊娠する。が、その後間もなく死ぬことになる……そこでお参りをした女性が早死にするという事実が相次ぐうちに、あそこに女性は行ってはいけないという暗黙のルールが自然に出来上がってきたのだ。  ましてやそんな所に行って「私はどうしても赤ちゃんが産みたいのです。どうぞ私のお腹に赤ちゃんを授けて下さい」なんて祈ったらどうなるか……その結果が聞きたくて、私はこの三か月間、理沙からの電話を心待ちにしていたのだ。  理沙、本当におめでとう!二つも授かったなんて、さすが授かり地蔵だわ。ふふふふふ。
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