双頭の龍

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双頭の龍

 荒涼とした赤茶けた大地と、分厚い雲に覆われた高温の大気の中で、双頭の龍がそれぞれの行きたい方向へ進もうともがいていた。  手足と翼が一対、そして頭も一対。片手片足をそれぞれで動かすのでは無く、一つの頭が両の手足を、一つの頭が両の翼を動かそうとするあまり、いつも行きたい方へ行くことができない。  一つの身体についている二つの頭は、目的が一致する事が無く、どちらかが北へ向かおうとすれば片方が南へ、片方が西へ向かおうとすればもう片方が東へといった具合で協力をするという事が無かった。  金色に輝く鱗に、赤茶けた大地にどっかりと立つ太い両足。背中には大きな翼。長く二股に延びた首の先につく右の頭も左の頭も、相手を御する事ができさえすれば思い通りになるのに、と、いつも苛立っていた。  龍は、その巨躯にも関わらず食事をあまり必要としていなかった。だから食べ物を探すために大地を駆けまわる必要も無かったし、重い雲の中、強風に逆らって空を飛ぶ必要も無い。  しかし、必要が無いからといって、自由に動けない事を受け入れる事はできない。  まだ父と呼べる存在、母と呼べる存在があった頃は、父母に従っていればよかったが、父が倒れ、母も倒れ、横たわった遺骸がすっかり土に還ってからは、龍に指図をする者は居なくなった。
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